2020年・日本の少雪(Scientific Reports)

~ 小槻研究室通信・第5号 ~
気象庁の報告によると2019年12月から1月にかけての気温は例年よりもかなり高く、日本海側における降雪量は記録的に少なくなりました(気象庁、2020)。実際に、スキー場の開設遅れや営業休止などの少雪に伴う影響が出ていました。小槻・樋口研では、東京大学・京都大学・東京工業大学の研究グループとの共同研究により、2020年の少雪の影響を推計するため、気象庁長期再解析データ(JRA-55; Kobayashi et al. 2015)を入力とした陸面過程モデルSiBUC(Simple Biosphere Model including Urban Canopy; Tanaka 2004, Kostuki and Tanaka 2013)による過去63年間の長期解析を行い、2020年3月上旬の積雪相当水量と、その顕著度を推計しました。今回、その速報論文がScientific Reportsに採択されましたので、ニュースレターにて報告させていただきます。
速報解析の結果、2020年3月上旬の積雪相当水量は過去63年で最少、若しくは、それに匹敵する少なさであることが明らかとなりました(図 左)。さらに、過去60年の積雪相当水量、気温、降水量を標準化して表す指標により各年の事例の顕著さを日本の河川流域毎に推計しました。これにより2020年の事例の背景として関東、甲信越、北陸、南東北では過去63年で最高となる気温の影響が示唆されました(図 右a)。一方で、気温の高さが上述の地域程顕著ではない北海道においては数年から数十年に一度程度となる降水量の少なさの影響が高いと考えられます(図1 右b)。これらの結果は、今後の温暖化により、降水量の増減如何に関わらず北日本で少雪が引き起こされうる事を示唆しています。

この研究は、今年の少雪にいち早く気付かれた東京大学・渡部哲史さんに提案頂き、二人で2月末に3日間籠って実験・解析を終えました。私個人としてはこの様に瞬発的に研究した例がなく、とても印象に残っています。実験実施には、樋口先生がH25-27に進められていた文科省・食糧安全保障パッケージでの中で開発した、準リアルタイム陸面過程システム(Kotsuki et al. 2015)が土台として活きています。気象災害などがあると速報的な研究も求められますが、目先のネタに食いついてばかりでは本質的な研究は出来ません。基盤となるシステム開発・強みの強化と、社会から求められる研究をうまくバランスしつつ、今後の研究を進めていきたいと思います。
(小槻峻司)
Watanabe, S., Kotsuki, S., Kanae, S., Tanaka, K. and Higuchi, A. (2020): Snow water scarcity induced by sthe record breaking warm winter in 2020 in Japan. Sci. Rep. doi: 10.1038/s41598-020-75440-8

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