宇宙基本法の成立(2008年)により、「宇宙開発と利用」に関する我が国の施策は「研究開発」から技術の幅広い「利用」へと変化した。今後の環境リモートセンシングでは、具体的な問題の発見・理解・解決、施策への反映を目指した多くの関連分野の協働体制の中におけるリモートセンシング技術の利用方法の確立を推進する必要がある。そこで、本プログラムでは日本および世界における解くべき重要な課題を設定し、リモートセンシングの成果を地上における情報と融合させ、異分野協働による衛星利用方法の高度化を達成することを目的とする。
主な担当教員
第3期中期計画期間の研究課題(平成28~33年度の6年間)
- 穀物の食料生産の増大と向上を目的として、水稲の生産量を推定・予測する方法を確立する。
- 水稲の生産基盤である水・土壌・気候の環境をリモートセンシング・GISの技術で把握し、その生産基盤を改良・向上させる方法を確立する。
- 日本と東南アジアを対象とし、農業保険の中核である損害査定プロセスにリモートセンシングデータ、GIS、気象データ等の空間情報を適用することにより損害査定を効率化する方法を確立する。
- UAS(Unmanned Aircraft Systems)としてマルチコプターや固定翼機を使った低高度の近接リモートセンシング技術を確立させ、リモートセンシングを様々な課題に対応させるプロトコルを作成し、社会実装する。
- フィールドワーク、リモートセンシング、モデリングを通じて森林生態系や湖沼・河川の水質モニタリングを行う。
- リモートセンシングとGISを用いた都市環境の把握、およびリモートセンシング手法による都市スケールの災害把握の研究。
重点課題:ドローンを活用した近接リモートセンシング
- マルチコプターや固定翼機を使った低高度の近接リモートセンシング技術を確立し、リモートセンシングを様々な課題に対応させるプロトコルを作成して社会実装する。
第2期中期計画期間の達成目標(平成22年~27年度の6年間)および代表的な成果
- 中国における環境変動に関する研究
- 台地−低地系水循環の生態系サービス機能の評価(千葉県との協働)
- 歴史的地理情報による環境変遷に関する研究
- 近接手法によるオンデマンド・リモートセンシング
- 食料安全保障のための戦略的生産管理手法の構築
- 農業共済保険制度への衛星データの社会実装
沙漠化、水問題、食糧問題、生態系サービス機能の評価、都市・農村計画、等の課題に対して、積極的にリモートセンシングの活用を図り、地上における情報との融合に基づき、新たな衛星の利用方法の創出を図る。
- アジアにおける環境変動のモニタリングと要因解析
- 千葉県における健全な水循環と生物多様性の再生
- 災害・環境リテラシーを醸成する空間情報システムに関する研究
- 生活に役立つ空間情報の構築と提供
- 空間情報の社会実装及び利用促進
衛星リモートセンシングによるアジアの環境変動モニタリング
地球表層の状況を繰り返し記録する衛星データを用いて、アジア各地の環境変動、災害に関する解析を行いました。リモートセンシング・社会経済情報・現地調査を組み合わせた要因解析に重点を置き、環境変動の人間要因と自然要因に関する総合的検討に基づき、アジア各所の環境変動の実態を解明しました。具体例として、新疆における農地の拡大は地球温暖化による雪氷の融雪水の増加の影響を受けており、将来にわたって持続可能ではないことを明らかにしました。
環境問題におけるトランスディシプリナリティーの実現
環境問題の理解と解決を目指す試みとして閉鎖性水域の水環境問題(印旛沼流域)、広域放射能汚染地域(福島)における環境回復の課題に取り組みました。地元住民を含むステークホルダーと協働して、問題解決におけるリモートセンシングとGISの有効性を立証しました。例えば、放射能汚染に関しては、都会の暮らしからは意識されにくい里山における放射能汚染の実態について、地形や植生によるセシウム沈着量の違いを明確にしました。
UAS リモートセンシングの実用化研究
UAS(Unmanned Aircraft Systems) を活用した低空からのリモートセンシングに関する開発研究を行いました。ドローンによるオルソ空中写真の実用化や三次元的な温湿度分布、地表面温度分布、三次元的な空間線量率分布等の環境計測技術を確立できました。また、水田圃場における草丈、LAI、NDVI などの計測による水稲の生育モニタリング技術を開発しました。
衛星データ活用型花粉飛散予報サービス
気象データ、スギ雄花数、MODIS/fPAR データから花粉飛散量を予測する手法を構築しました。このfPAR 画像は、森林の活性度を示す指標に読み替えが可能であり、この値が高いほどスギの雄花の着花量が多くなる傾向があります。民間企業でも本センターで開発した衛星データを活用した新しい花粉予測手法を採用し、花粉飛散予報情報の提供を開始しました。国民病とも言われる花粉症患者や花粉症に関わる製品を製造する事業者にとって欠かせないサービスとなっています。
気候変動への適応策としての農業保険サービス
空間情報を活用して水稲の収量推定及び減収割合を評価し、農業保険制度における損害評価の効率化とコスト削減に貢献する新たな評価手法を構築しました。食料安全保障の観点からの農業保険制度という社会インフラの強化につながり、気候変動に対する適応策としての農業保険制度を強靭化することはグローバルな視点からも社会的効果が高い取り組みです。