リモートセンシング技術による地球環境研究の進展とともに、既存の観測方法の限界がしばしば問題となっている。本プログラムでは、これまで十分な観測が困難であったターゲットについて、新たなリモートセンシングセンサとアルゴリズムを開発することによって新局面を積極的に切り拓いていく。とくに、可視光からマイクロ波に至る広い波長域でのリモートセンシング情報の統合と活用、次世代小型衛星センサによる大気情報と植生情報を含むグローバルな環境情報の取得などの活動を通じて、先端的リモートセンシングの創生と新たな環境情報の創出をめざす。
主な担当教員
- ヨサファット テトォコ スリ スマンティヨ教授:研究室HP
- 本多嘉明准教授
- 梶原康司講師
第3期中期計画期間の研究課題(平成28~33年度の6年間)
- エアロゾル、雲、温暖化気体、および汚染気体を対象とした新しい大気リモートセンシング手法として、自然光源および多様な人工光源を用いた高スペクトル分解能観測の可能性を明らかにする。
- 広域観測、高頻度観測、高スペクトル分解能観測が可能なひまわり8号など新しい衛星データと地上観測データの統合利用することにより大気情報と陸域情報の分離を含む新しい観測方法の可能性を明らかにする。
- 光学センサを用いた多角観測によるバイオマス推定アルゴリズム高度化に対して寄与する地上検証データ収集手法のうち、植生LIDARを用いて地上および空中からの森林樹冠構造計測手法を確立する。
- 地上リモートセンシングを活用した地球大気環境の萌芽研究として、新たな観測装置開発を行う。具体的には、太陽電池駆動型の独自の大気環境観測装置を開発する。得られたデータと成果は公開する。
- 高分解能レーザーで取得される3次元データを活用した森林リモートセンシングとバイオマス変化量の把握。
- 高感度低出力のミリ波レーダによる地球規模の雲分布の観測およびこのレーダを活用した大気中浮遊物質(昆虫や花粉)の分布計測、飛行場周辺での霧の詳細計測。
重点課題:先端マイクロ波リモートセンシング
- 教育・環境・災害監視用の無人航空機・飛行機搭載のマルチバンド、小型・軽量の合成開口レーダシステムを開発する。
- グローバル地殻変動観測用の小型衛星搭載用合成開口レーダシステムのエンジニアリングモデルを開発する。
- ALOS-2やTerraSAR-X等の各種SAR画像による地震、津波、火山、風水害などの災害把握に関する研究を推進し、災害把握手法の標準化を目指す。
- 地震現象を地殻内の応力集中による破壊現象としてとらえ、その準備過程において地圏、大気圏、電離圏で発生する電磁気現象を正確に把握し、その物理機構を解明する。地上・衛星観測データを用いた電磁気的なアプローチによる地殻活動の監視、いわば「地象天気予報」を実現し、減災に役立てることを究極の目的とする。
第2期中期計画期間の達成目標(平成22~27年度の6年間)および代表的な成果
- 円偏波合成開口レーダデータの環境応用/合成開口レーダ搭載無人航空機・航空機・小型衛星の基本設計
- 電離層観測用小型衛星(GAIA-I)の開発
- 衛星データによる温室効果ガス濃度導出アルゴリズム開発と検証
- 衛星データと地上取得データをリンクした広域大気情報の解析と活用
- 次期地球観測衛星GCOM-Cに向けて:可視近赤外データの検証手法の確立と標準プロダクトのためのバイオマス、水ストレス傾向指数、カゲ指数等のアルゴリズム開発
可視光からマイクロ波に至る広い波長域でのリモートセンシング情報の統合と活用を図り、先端的リモートセンシングセンサおよび解析技術を社会的に活用していく道筋を確立する。
- マイクロ波RSの展開に向けた無人航空機・航空機・小型衛星の開発と地球観測への活用
- 静止衛星からの大気汚染物質等の気体濃度導出可能性の検討
- 次世代衛星センサおよび革新的地上測器による高精度環境情報、とくに大気情報と植生情報の取得
- 次期地球観測衛星GCOM-Cの検証実施とデータの活用
先端マイクロ波センサとその応用開発
当センターは地球環境観測のために、無人航空機、航空機、小型衛星搭載用の様々な先端的なマイクロ波センサを開発しています。グローバル地殻変動観測用の円偏波合成開口レーダ(CP-SAR)、電離層の物理情報観測用の電子密度電子温度プローブ(EDTP)等です。これらにより地震前兆の把握および地盤沈下・隆起、土砂崩れ等の地表面変動のモニタリングができます。
大気中の長光路(5km)を利用した都市上空の二酸化炭素濃度の連続計測
赤外広帯域光源を用いて千葉市上空で往復5km の光路に沿ってCO2 濃度の連続計測を達成しました。地点毎にサンプリングして測定していた従来の方法を変える新しい方法で、都市域のCO2 排出源や海洋・森林の吸収を知る上で有効です。
地上観測エアロゾルモデルに基づいたMODIS 衛星データの大気補正(上)と二方向性反射特性を用いた森林バイオマス推定(下)
衛星データの大気補正のためには、大気散乱光の影響を評価して除去する必要があります。分光放射計による地上観測データを用いて放射伝達計算を行いMODIS 画像を補正し、地表面反射率を導出しました。これにより大気変動の影響を取り除いて安定した画像データを作成することができます。
《森林構造モデルを用いたBRDFシミュレーション》
植生バイオマスを推定する目的で、レーザによる森林構造データとUAV 搭載分光放射計による計測データの実測データの基づいた二方向性反射率分布関数(BRDF)のシミュレーションを行う方法とそのソフトウェア(シミュレータ)を開発しました。これにより多方向観測の衛星データから全球の植生バイオマス推定が可能になります。
GOSAT/TANSO-FTS 熱赤外バンドからの温室効果ガス濃度導出
GOSAT/TANSO-FTS 熱赤外バンドの観測スペクトルから二酸化炭素およびメタンの濃度の高度分布を導出するアルゴリズムを開発しました。開発したアルゴリズムで導出された温室効果ガスの三次元分布データにより、温室効果ガスの地上発生源から上空への伝搬を明らかにすることができます。
このデータは下記より一般に公開されています。
http://www.gosat.nies.go.jp/